ポイント政策はポイント大国から投資大国への契機にも?
2023年10月16日
沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部
日本はポイント大国と言われており、矢野経済研究所がまとめた「2022年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」によると、2021年度のポイント市場の規模は2兆円を超え、2026年度には2兆5000億を超えると予想されている。本コラムでは、2023年6月にマイボイスコムが行った「ポイントサービスに関するアンケート調査」の結果を紹介し、日本のポイント市場の現状と潮流を概観する。それに続いて、日本がポイント大国となった考えられる理由を考察し、ポイントの投資促進政策への有効活用について議論する。
ポイントサービスは生活に浸透し、利用範囲は多岐に渡る
まず、日本人のポイントサービス利用状況を把握するために、「ポイントサービスに関するアンケート調査」から10代から70代の男女が継続的に利用しているポイントサービスの個数をまとめたものが、図1である。図1から、利用しているポイントサービスの個数の分布に、この6年間で大きな変動はなく、ポイントサービスを利用していない人は5%前後で安定していることがわかる。また、ポイントサービスの利用個数は、「3~4個」が最も多く、40%近い割合となっており、5個以上の利用者も全体の30%強となっている。さらに、ポイントサービスを10個以上利用する者の割合も6%を超える水準となっており、人々の生活にポイントサービスが浸透しているのが伺える。
消費者はどのような店舗でポイントサービスを使用しているのだろうか?それを確認するために、図2は 「ポイントサービスに関するアンケート調査」から直近1年間でポイントサービスを利用している店舗・施設・サービスをまとめたものである。図2から、幅広い店舗やサービスで、ポイントサービスが利用されていることがわかる。なかでも、利用が高くなっているのは、「スーパーマーケット」「ドラッグストア」「コンビニエンスストア」で、それぞれ60%前後の人が利用している。また、店舗以外では、「クレジットカード」を通じてポイントサービスを利用している人が、近年は50%を超える水準となっている。さらに、利用率が顕著に上昇している店舗としては、「オンラインショップ(楽天、amazonなど)」「ファストフード店」「ガソリンスタンド」などが挙げられ、「オンラインショップ(楽天、amazonなど)」は50%に迫る水準となっている。逆に、減少傾向が見られるのは「家電量販店」「百貨店」などで、ポイントサービスの先駆的な役割を果たしてきたものも多く、ポイントサービスの栄枯盛衰が感じられるものとなっている。
共通ポイントサービスは楽天ポイントが優勢
ポイントサービスの盛り上がりを受けて、複数の店舗やサービスで利用できる共通ポイントサービスも増えており、しのぎを削る状態となっている。図3はその状況を確認するために、直近1年間の共通ポイントサービス利用状況をまとめたものである。最も利用されている共通ポイントサービスは、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」で70%を超える水準となっており、それに続くのが「Tポイント(Tカード)」で60%台、「Pontaポイント(Pontaカード)」「dポイント」が各40%台となっている。共通ポイントサービスに関しても、増加傾向と低下傾向のものが別れる形となっており、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」「dポイント」「Pontaポイント」は増加傾向、「Tポイント」「nanacoポイント」は2019年を境に低下傾向に転じている。
共通ポイントサービスの勢力図は、直近1年間の最頻利用共通ポイントサービスをまとめた図4を見ると、より明確となる。直近1年間の最も利用されている共通ポイントサービスは、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」が43.8%と飛び抜けており、それに続くのが「dポイント」「Tポイント(Tカード)」でそれぞれ13.7%、11.4%、それ以外のサービスは10%を切る水準となっている。また、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」は、増加傾向も顕著であり、過去6年間で15%以上の増加となっている。それ以外では、「dポイント」が唯一、顕著な増加傾向を示しており、10%以上の増加となっているが、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」には及んでいない。一方、2017年では、最も利用されていた「Tポイント(Tカード)」は下落傾向が顕著であり、この6年間で17%以上の下落となっている。図2で確認したように、近年、幅広い店舗やサービスでポイントサービスが利用されており、「楽天ポイント(楽天ポイントカード)」は利用範囲の広さも一つの強みとなり、ポイント経済圏を確立してきているということがわかる。
ポイント政策はポイント大国から投資大国への契機にも?
日本がポイント大国になったのはなぜであろうか?あくまでも筆者の想像の域でしかないが、まず日本人の計算力が高くポイントのお買い得度を理解できる能力を備えているとともに、ポイントを管理し利用することができる能力が高いなど、日本人の細かな国民性がポイントサービスにマッチしたということがあるであろう。それに加えて、日本では政策金利が1995年に0.5%に引き下げられて以来30年近く、普通預金金利は低迷し、1年物の定期預金金利ですら0.5%を上回ることがほとんどなかったことも、その理由として挙げられそうである。そのような低金利が続いている状態においては、例えば、1%ポイント還元というのは、非常に魅力的となる。その結果、ポイントサービスによってポイントを貯めて、有効活用するということが浸透し、ポイント大国が築かれてきた可能性が高い。
ポイント大国日本では、政策においてもポイントが多用されている。例えば、環境にやさしい家電の普及を促進するために家電エコポイントが2009年に導入されたのを皮切りに、住宅エコポイントやマイナポイントなど、様々なポイントが政策の一環として、利用されている。最近では、2024年に宅配ドライバーが不足することが懸念されている物流2024年問題に対処するために、日本政府が置き配にポイントを付与することを検討しているというニュースが報道されたばかりである。議論してきたように、日本はポイント大国であり、政策にポイントを有効活用することによって、政策効果を高められるのであれば、ポイントを活用するのは一理あるであろう。以前のコラムで、「貯蓄から投資へ」の流れを加速するためには、金融教育と成長戦略が重要であることを議論したが、それに加えて、ポイント政策を活用することも一つのアイデアかもしれない。例えば、新規長期投資に関して、政府が0.1%のポイントを還元することによって、100兆円の預金が投資に回されたとすると、1000億円の予算で100兆円の投資を生み出せることになる。そのためには、国民の金融教育を強化するとともに、成長戦略を明確にし、魅力ある投資先を確保するのが先決であるかもしれないが、ポイント大国が投資大国に変革するきっかけづくりのひとつとして検討の余地はあるかもしれない。