日本の女性活躍には中間管理職からの底上げが必須
2023年08月23日
沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部
2023年6月、世界経済フォーラム(WEF)は、世界各国の男女格差の度合いを評価した「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版を発表した。また、7月には、厚生労働省が男女の雇用均等問題に係る雇用管理の実態を把握する雇用均等基本調査の2022年度の結果を公表した。いずれの結果も、日本における男女の雇用機会均等が期待通りには進んでおらず、政府ならびに企業が一丸となって、より一層の努力をしていく必要があることが浮き彫りとなった。本コラムでは、その点をデータから確認するとともに、筆者の最近の研究結果も含めて、日本の女性活躍において重要と考えられる点を議論する。
日本のジェンダーギャップ指数はほぼ横ばいが続き、順位は低下傾向が続く
WEFが作成しているジェンダーギャップ指数は、教育・経済・健康・政治の4つの分野のデータを基に作成されており、各分野は複数の項目から構成されている。それらの各項目において、男性に対する女性の割合が評価され、0が完全不平等、1が完全平等を表す。2023年の日本のジェンダーギャップ指数をまとめたものが図1であり、日本は146カ国中125位となっている。分野別に見てみると、教育は47位、健康は59位ながらも、スコアは0.97を超える水準となっており、他国と比較しても見劣らない。しかしながら、経済のスコアは0.561で123位、政治のスコアは0.057で138位となっており、経済と政治の分野における男女格差の大きさが、日本の順位が低迷している主因となっていることがわかる。
図1:日本の2023年ジェンダーギャップ指数
内閣府男女共同参画局HPより
WEFのジェンダーギャップ指数は、2006年から公表されており、国際比較するだけでなく、一国の時系列的変化を観察することもできる。図2は、日本のジェンダーギャップ指数と順位について、2006年公表開始以来の推移を図示したものである。図から分かるように、日本のジェンダーギャップ指数は公表以来ほぼ横ばいであるのに対して、順位は下落傾向が顕著である。具体的には、2006年は80位であった順位が、ほぼ低下の一途を辿り、2023年は125位まで低下し、過去最低を記録している。つまり、日本は過去15年以上、ジェンダーギャップ指数を改善することができなかったため、40カ国以上に抜かれ、男女格差が最も大きい国の代表国となってしまったのである。
日本の女性管理職比率低迷の主因は大企業
日本において、経済分野の不均衡が大きくなっているひとつの要因は、女性管理職の割合が低いことである。図3は、それを確認するために、厚生労働省による2022年度雇用均等基本調査から、2009年度から2022年度までの役職別女性管理職等割合の推移を図示したものである。図から分かるように、管理職の女性比率は緩やかに上昇傾向にあり、係長相当職は6%以上、課長相当職は5%以上、部長相当職は4%程度の上昇となっている。しかしながら、いずれの役職においても女性比率は20%に届いておらず、より一層の上昇が必要である。また、役員の女性比率は2013年から20%を超えているものの、近年は21%前後で停滞しており、男女格差の解消のためには、女性役員比率もさらに上昇させていかなければならない。
日本政府は2023年6月13日に決定した女性版骨太の方針のひとつとして、プライム市場上場企業を対象に、2030年までに女性役員比率を30%以上とする数値目標を盛り込んだ。図3を見ると、この目標は達成可能なように思えるが、現実はそれほど甘くはなさそうである。その理由としては、大企業において、女性の管理職登用が大幅に遅れているからである。それを確認するために、図4は同調査から規模別役所区別女性管理職等割合をまとめたものである。いずれの役職においても、10~29人の最小規模企業の女性管理職比率が最も大きくなっており、100人以上の企業における女性管理職比率は、それと比較すると、かなり低い水準となっている。特に、大企業における女性役員比率の低迷は顕著で、10~29人の最小規模企業では29%以上となっているのに対して、100~299人以上の規模企業では10%程度、300人以上の規模企業では5%を切る水準となっている。したがって、日本の女性活躍を推進するためには、大企業における女性管理職比率、特に女性役員比率を上昇させることが不可欠であることが示唆される。
日本上場企業の女性役員数は世界水準には大きく及ばず、中間管理職からの底上げが必須
大企業の女性管理職比率が低いことに関して、日本政府は何もしてこなかったわけではない。女性活躍は長い間、重要課題とされており、2013年に始まったアベノミクスでは、 第三の矢である「成長戦略」において最も重視されている分野のひとつとされた。具体的には、政府は、国・地方公共団体や従業員が300人を超える民間事業主に対し、女性管理職の割合などの数値目標を設定し、女性の活躍に向けた取組みを盛り込んだ行動計画を公表するよう義務づけた。また、有価証券報告書にも役員の女性比率の記載を義務付けた。このような政府の取り組みもあり、上場企業における女性役員数は着実に増加している。このことは、2021年の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の2021年度第3回会合事務局作成資料から上場企業の女性役員数の推移を図示した図5から確認できる。図から分かるように、日本の上場企業における女性役員数は2008年から着実に上昇しており、近年、上昇傾向が大きくなっている。その結果、2013年までは1%台で低迷していた女性役員比率が、2021年には7.5%まで上昇している。
このように、上場企業の女性役員比率は大幅に上昇したものの、国際的に見ればその水準はまだまだ低水準である。このことは、同審議会資料から諸外国の大企業における2020年の女性役員比率を図示した図6から確認できる。実際、多くの先進主要国の女性役員比率は30%を超えており、日本を除く掲載国最低のアメリカでも28.2%であるのに対して、日本は10.7%である。このギャップを埋めるべく、先にも述べたように、政府は2023年6月13日に決定した女性版骨太の方針のひとつとして、プライム市場上場企業を対象に、2030年までに女性役員比率を30%以上とする数値目標を盛り込んだ。しかしながら、日本においては、役員候補となる女性人材が絶対的に不足していることが指摘されており、その根本的な問題が解決できない限り、目標の実現は難しいであろう。そのためには、企業は幹部候補となる女性人材の育成により一層力を入れ、中間管理職から女性人材を底上げしていく必要があるだろう。 最近、私は企業の女性活躍が企業価値に与える影響を研究テーマの一つとしているが、最新の分析結果からは、課長・部長の女性比率が、役員女性比率よりも、より強く頑健的に企業価値と関連している傾向が明らかとなっている。つまり、中間管理職からの底上げが、企業評価にとって重要である可能性が示唆されており、企業が女性中間管理職育成に力を入れる一つのきっかけになれば、幸いである。