若年層のエシカル消費を喚起するためのESGマーケティング

2022年12月02日


沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部


近年、持続可能な開発目標を示すSDGsという言葉をよく耳にするようになっている。SDGsは、国連加盟国が2016年~2030年の間で持続可能な世界を実現・達成するために掲げた17つの目標であり、2015年に国連サミットで採択された。例えば、SDGsには、貧困や飢餓の削減、福祉や人権の保障、環境の保全に関するものが含まれている。これに関連して、投資の世界ではSDGsの達成に貢献する環境・社会・企業統治への投資、いわゆるESG投資が活発化しており、マーケティングの世界では、自社のESGへの取り組みを投資家や消費者に対して発信していくESGマーケティングも発展している。一方で、消費者の間ではESGに配慮した製品やサービスを選択するエシカル消費が注目を集めている。本コラムでは、そのエシカル消費について、飢餓や環境保全などに関連し、消費者にとって身近な問題でもある食品ロス削減を取り上げ、データから消費者の意識や取組を概観する。そのうえで、若年層のエシカル消費を喚起するために、ESGマーケティングが重要となる可能性を議論したい。

食品ロス削減は消費者がSDGsの実現に貢献できる最も身近な取り組みの一つ

図1は、マイボイスコムが2020年3月に10代~70代までの男女を対象に行ったサステナビリティ(持続可能性)に関する調査から、SDGsの中で重要だと思うものをまとめたものである。図1からわかるように、17つの目標のうち、「すべての人に健康と福祉を」、「安全な水とトイレを世界中に」、「気候変動に具体的な対策を」、「貧困をなくそう」、「飢餓をゼロに」の5項目が特に高くなっており、30%を超える水準となっている。

図1:SDGsの中で重要だと思うもの

SDGsの中で重要だと思うもの
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それでは、消費者はSDGsの実現のために、具体的にどのようなことに取り組んでいるのだろうか?同調査では、消費者の取り組みについても調査しており、図2は消費者が「エシカル消費」の観点で行っていることをまとめたものである。食品ロスを減らすと答えた人の割合は最も多く、唯一40%を超える項目となっている。食品ロス削減は、図1で挙げられた重要5項目のうち「安全な水とトイレを世界中に」を除いた全ての項目と、密接に関連するものであり、消費者が食品ロス削減を通じて、SDGsの重要項目に働きかける努力をしていることが見受けられる。

図2:エシカル消費の観点で行っているもの

エシカル消費の観点で行っているもの
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また、内閣府が2020年9月に全国18歳以上の日本国籍を有する者3,000人を対象に行った食生活に関する世論調査では、家庭における食品ロス削減の工夫が調査されており、その結果をまとめたものが図3である。結果から、消費者は、食品の購買・管理・調理・消費など様々な観点から食品ロス削減の工夫をしていることがうかがわれる。

図3:家庭における食品ロス削減の工夫

家庭における食品ロス削減の工夫
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若年層が食品ロス削減に取り組む企業やサービスを好意的に考える傾向

次に、食品ロス削減に取り組む企業やサービスに対する消費者の意識を見てみたい。図4は、同世論調査から、食品ロス削減に取り組む小売店における購入に対する意識をまとめたものである。調査結果から、70歳以上を除くすべての年代で、「購入しようと思う」とする者の割合が8割を超えており、非常に高い値となっているがわかる。また、その割合は年代が若いほど、高くなる傾向が見て取れる。

図4:食品ロス削減に取り組む小売店における購入に対する意識

食品ロス削減に取り組む小売店における購入に対する意識
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また、図5は同世論調査からフードシェアリングの利用に対する意識をまとめたものである。フードシェアリングとは、小売店で発生した見切り品や飲食店の予約のキャンセルなどで余った食材を、本来の価格より割安に販売することにより、食品ロス削減を試みるサービスである。図からわかるように、フードシェアリングサービスを利用したことがあり、今後も利用したいと思う者の割合は、年齢が高くなるにつれて高くなり、40歳以上の年代では3割を超えている。一方、フードシェアリングサービスを利用しことはないが、今後利用したいと思う者の割合は、若年層で高くなっており、39歳以下の年代では6割を超える水準となっている。

図5:フードシェアリングの利用に対する意識

フードシェアリングの利用に対する意識
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若年層のエシカル消費を喚起するESGマーケティングの可能性

以上の結果は、若年層が食品ロス削減に取り組む企業やサービスを好意的にとらえ、購買意欲が高い傾向を示しており、今後の食品ロス削減産業、より広くはエシカル商品産業の拡大を期待させるものである。しかしながら、エシカル商品は、商品の性質上割高にならざるを得ないものも多く、若年層がエシカル消費に積極的に支出するためには、企業のほうも何かしらの策が必要となるであろう。その際のひとつの鍵となる可能性があるのが、企業のブランド力である。例えば、iPhoneはAndroidスマートフォンと比較して一般的に割高であるが、日本におけるiPhoneシェアは他国と比較して高く、その中でも若年層のシェアが高いことが知られている。これは、日本の若者がiPhoneに対して、機能以上の価値を見出している証拠であり、その理由の一つはAppleのブランド力であろう。若者を含めて、社会に貢献したいと感じている人が多いのは確かである。そのような意識の高い人のエシカル消費を喚起するためにも、ESGマーケティングを通じて、ESGへの取り組みを投資家や消費者に対して発信し、エシカルブランドとしての立場を構築していくことは、今後より一層重要となっていくであろう。