国民の健康意識は高く、健康不安は上昇傾向か?
2022年08月23日
沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部
新型コロナウィルスが世界を騒がせて、既に2年半が過ぎた。各国が様々な対策を取りながら、通常の生活を取り戻そうとしているが、以前の状態に戻るにはまだ時間がかかりそうな様相である。この2年ほどは、少しの咳や微熱にも敏感になり、改めて健康の大切さを感じることが多いものとなったのは事実であろう。このコラムでは、健康に関連するデータをいくつか紹介したい。
国民の健康意識は高く、年代が上がるにつれて意識は増加
図1は内閣府2021年度国民生活に関する世論調査から引用したものであり、今後の生活の力点に関する調査結果をまとめたものである。内閣府の国民生活に関する世論調査は、全国18歳以上の日本国籍を有する者3,000人を対象に、生活に関する様々な意識を調べたものであり、1950年代からほぼ毎年行われている興味深い調査である。図1から、今後の生活の力点として、健康を挙げている国民が圧倒的に多いことがわかる。この傾向は、前回の2019年度調査でも同様の傾向であり、新型コロナウィルス発生以前から健康を重視して生活を送ろうとしている国民が多いことが確認できる。
また、図2は内閣府2020年度薬局の利用に関する世論調査における自分の健康への意識に関する調査結果をまとめたものである。自分の健康への意識について、「とても意識している」と「ある程度意識している」を合わせると90.0%となっており、全体的な健康意識の高さが見て取れる。この傾向は、性別でみてもほとんど変わらないが、年齢別では、年齢層が高くなるほど「とても意識している」の割合が高くなっていることもわかる。
国民の健康不安は上昇傾向か?
では、国民の健康状態に関しては、データからどのようなことがわかるであろうか?国民生活に関する世論調査では、日常生活の悩みや不安に感じる項目も調査しており、その結果をまとめたものが図3である。図3から、2021年度の調査では、「自身の健康について」が1位となっており、健康不安を感じている国民が多いことがわかる。同調査において同項目は、2019年度の調査まで過去15年以上に渡り「老後の生活設計について」についで2位が続いていたが、2021年度の調査では1位となっている。
さらに、高齢者の健康状態に関するデータは、高齢者の生活と意識に関する国際比較調査からも得ることができる。この調査は、内閣府が5年ごとに行っている調査であり、2020年度の調査が9回目の調査となっている。その調査項目のひとつに、現在の健康状況に関する項目があり、その結果をまとめたものが図4である。日本では、「健康である」と「あまり健康とはいえないが、病気ではない」を合わせると、第8回と第9回調査ともに、90%を超える水準となっており、他国と同様の水準である。しかしながら、日本では「健康である」が、第8回の64.8%から 第9回の50.8%へと大幅に減少し、それと同時に、「あまり健康とはいえないが、病気ではない」が29.4%から40.9%に上昇しており、欧米3か国の回答に大きな変化が見られないのとは対照的になっている。
以上の結果は、ともに、国民の健康不安が上昇している可能性を示唆しており、注意すべき結果である。新型コロナウィルスが健康を脅かしていることが影響している可能性もあるかもしれないが、今後の調査結果や他の調査結果から、より慎重な考察が必要であろう。
健康不安の解消に向けて健康サポート薬局に期待
それでは、健康不安を感じたときに、何かできることはあるであろうか?厚生労働省は2016年10月に健康サポート薬局の制度を開始し、かかりつけ薬剤師・薬局の機能に加えて、市販薬や健康食品に関することはもちろん、介護や食事・栄養摂取に関することまで気軽に相談できる薬局を公表している。したがって、健康サポート薬局は健康不安に関して、専門家に気軽に相談し、専門家からの意見を聞くことができる貴重な場である。しかしながら、健康サポート薬局の認知度は低く、活用が進んでないのが現状である。上述の薬局の利用に関する世論調査はその認知度を調査しており、図5はその結果をまとめたものである。図からわかるように、健康サポート薬局を「知らなかった」とする割合が全体で90%を超えており、「よく知っていた」とする割合は、2%以下となっている。これは、素晴らしい制度が有効活用されていない顕著な例であり、健康サポート薬局の制度が有効活用され、国民の健康不安の解消に寄与することを期待したい。