気候変動に関する懸念は多岐に渡り、政府には多種多様な政策を期待
2022年07月22日
沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部 教授
近年、気候変動が原因と思われる異常気象が多く観測されているが、2022年も例外ではないようだ。6月は日本各地で猛暑となり、東京は6日連続猛暑日を記録し、6月の猛暑日連続記録を更新した。7月に入ってからは、線状降水帯という言葉が頻繁に聞かれるようになり、大雨や土砂災害への警戒が促されることが多くなっている。また、ヨーロッパ各地で熱波が猛威をふるい多くの死者や山火事が発生する事態となっている。
このように、気候変動は確実に実感せざるを得ないものとなっており、気候変動に歯止めをかけることは、短期的にも長期的にも喫緊の課題となってきている。実際、日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言し、動き出している。それでは、人々は気候変動に対して、どのような意識や意見を持っているのであろうか?内閣府が2020年に行った気候変動に関する世論調査は、まさにそれを調べた興味深いものとなっている。また、内閣府は、調査名や調査内容に変更を加えつつ、地球温暖化対策に関する世論調査を、過去複数回に渡り行っている。これら一連の世論調査は、単純比較は難しいものの、気候変動に関する意識の推移が見てとれる貴重な調査となっている。
地球環境問題への関心がある人は90%程度で年代が上がるにつれて関心は増加
図1は地球の温暖化、オゾン層の破壊、熱帯林の減少などの地球環境問題に関心があるかを性別・年齢別にまとめたものである。図からわかるように、「関心がある」と「ある程度関心がある」を加えると88.3%となり、90%近い人々が地球環境問題に関心を持っていることがわかる。性別では割合に大きな差異はないが、年代別では年代が上がるにつれて「関心がある」とする者の割合が高くなっていることが見てとれる。特に、20代と30代においては、「関心がある」とする者の割合が他の年代と比較して低くなっていることから、若い世代の関心を高めていく必要があるであろう。
猛暑や大雨で気候変動を感じる人が多く、気候変動の懸念は多岐に渡る
それでは、人々は気候変動をどのようなことから感じているのであろうか?図2は、人々が日常生活の中で感じる気候変動の影響をまとめたものである。それによると、89.8%の人が「夏の暑さ」、81.6%の人が「雨の降り方の激しさ」を挙げており、最近の異常気象と対応する結果となっている。また、図3は問題だと思う気候変動の影響をまとめたものであるが、食料不足への影響や災害被害への懸念が70%を超えており、大きな懸念となっている。また、野生生物や植物の生態系を心配する声や、熱中症などの健康被害、住環境の悪化などを指摘する声もあり、気候変動の影響が多岐に渡ることが見てとれる。
気候変動への取組が広まるとともに、政府には多種多様な政策を期待
気候変動の実感が高まり、気候変動が及ぼす影響への懸念が高まるにつれて、気候変動に対処するための取組も増えつつあると考えられる。図4は現在、実践している気候変動適応への取組をまとめたものである。図からわかるように、気候変動を実感している猛暑や大雨に対応する取組みが、それぞれ68.7%と43.2%と高くなっており、感染症の予防、環境資源の保全、農業や漁業への支援なども挙がっている。一方、「特にない」と答えた者の割合も15.0%となっており、こうした層に取組を啓蒙するなど、すべての人が気候変動に対して意識をもち、何かしらの取組を行っていくことが望まれる。最後に、図5は政府に期待する取組をまとめたものである。結果からは、防災対策、食料生産者保護、情報提供の充実が50%以上と高くなっているのに加えて、環境保全、感染症対策、温暖化対策なども30%を超えており、政府に求める役割が多岐に渡っているのが見てとれる。気候変動はもはや待ったなしの状態と言っても過言ではない状態に近づいており、官民一体となって、気候変動への意識をさらに高めていき、気候変動への取組が活発化されることを期待したい。