SNSの危険性を再認識し、対策を検討する時期の到来か
2024年12月13日
沖本 竜義
慶應義塾大学経済学部
2024年11月28日、オーストラリア議会は、16歳未満のSNS利用を禁止する世界初の法案を可決した。違反をした場合、利用者に罰則はないが、SNS事業者は最大でおよそ50億円の罰金が科される。対象は、XやTikTok、Instagram、Facebookなどで、対象企業は法施行までに対策を強化する必要がある。これらのSNSは日本でも広範に使用されており、日本でも若者のSNS利用に大きな問題提起となったため、このニュースは大きく報道された。このニュースはSNSの利便性だけでなく、その危険性についても再考する契機となるであろう。そこで、本コラムでは、SNSに関連する幾つかのデータを紹介し、日本におけるSNSの利用状況や急増しているSNSに関連した犯罪状況を概観し、SNSの危険性とその対策の必要性について議論する。
SNSの登録者数は年々増加し、70%を超える水準へ
日本のSNSの利用状況を確認するために、2024年11月に公表されたマイボイスコムのSNSの利用に関するアンケート調査からSNSの認知・登録状況を図示したものが図1である。図から分かるように、SNSの登録状況は15年前には20%に満たなかったものの、過去15年で急速に拡大し、最近では7割を超える水準に達している。
同調査からこれらの登録者が実際に利用しているSNSを調べたものが図2である。それによると、「LINE」が89.7%、「X(旧Twitter)」と「Instagram」が各40%台、「Facebook」が4割弱となっており、「LINE」や「Instagram」が増加傾向である一方、「Facebook」は減少傾向となっている。また、「TickTok」の登録者数が近年増えてきており、新たなSNSとしての地位を築き始めているのがうかがえる。また、この図から直接見て取れることはできないが、「X(旧Twitter)」の利用者は若年層で高くなっており、「Instagram」は若年層の女性の比率が高い傾向にあることが報告されている。
SNSの利用頻度も年々増加し、くつろぎ時間やすきま時間の主要な活用方法に
SNSの利用者は着実に増えていることが、上で確認されたが、各個人の利用頻度はどうなのであろうか?それを確認するために、マイボイスコムのSNSの利用に関するアンケート調査からSNS利用頻度を図示したものが図1である。SNS登録者の利用頻度は、「1日2回以上」が5割強、「1日1回程度」が3割弱で、これらをあわせると8割弱が毎日アクセスしていることが、この図からわかる。15年前は「1日2回以上」と「1日1回程度」ともに、2割に満たない水準であったにもかかわらず、両者とも調査を重ねるごとに数字を伸ばしており、特に、「1日2回以上」の上昇が顕著となっている。また、調査からは、女性や若年層で利用頻度が高い傾向にあることも指摘されている。
次に、SNSは実際にどのような場面で利用されているかを確認するために、同調査からSNS利用場面をまとめたものが図4である。それによると、利用者の6割弱が「自宅でくつろいでいるとき」を選択しており、SNSの利用がくつろぎ時間の有効な活用方法になっていることがわかる。また、利用者の4割弱が「暇なとき」と「すきま時間」を挙げており、SNSが暇つぶしとしても積極的に活用されている様子がうかがえる。
SNSの危険性を再認識し、対策を検討する時期の到来か
以上をまとめると、SNSの利用者は年々増大し、各利用者の利用頻度も年々上がってきていることがわかった。その結果、SNSはくつろぎ時間やすきま時間の主要な活用方法になっており、我々の生活に切っても切り離せないような存在になったということができる。このこと自体は、SNSの利便性や娯楽性ならびにその進歩を考えると、当然の結果と言える。人々の要求とそれに応えるSNSが合致した結果である。しかしながら、近年、SNSを通じて偽の投資話に巻き込まれたり、闇バイトとして犯罪行為に関与させられたりする事例が多くなっていることも忘れてはならない。実際、警察庁がまとめた2024年8月末におけSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数と被害額の推移をまとめた図5を見てみると、2023年1月から2024年4月まで、認知件数と被害額ともにほぼ増加の一途を辿っており、2024年5月以降は、上昇はおさまったものの、高止まりしている状態であることがわかる。
オーストラリアの16歳未満のSNSの禁止法案は、我々がSNSの危険性を再認識する良い契機を与えてくれたのではないかと思う。それとともに、SNSが若者に与えている影響について、国を挙げてきちんと調査し、国として何かしらの策を講じるべきかどうかを議論する必要があるであろう。実際、オーストラリアで今回の法案が可決された背景には、14から17歳のおよそ3分の2が、薬物乱用や自殺、自傷行為に関連した有害なコンテンツをSNSで見ており、それが一部の凶悪犯罪や深刻ないじめなどにつながっていることが危惧されたこともある。SNSは我々の日常になくてはならないものになりつつあるがゆえに、SNS絡みの犯罪も増えてきており、特に、若者はその犠牲になりやすい。その危険性をきちんと再認識したうえで、SNSの有効活用と若者の保護を両立させる政策の実施が必要となってきているのである。オーストラリアの16歳未満のSNS禁止というのは、その顕著な一例であるが、その他にも、学校教育でSNSの危険性についての教育を強化することや、SNS事業者に対して危険なコンテンツをより厳しく管理する義務を課すことなどの対策も考えられる。SNSが我々の生活によりポジティブな影響を生み出していけるよう、社会を挙げて検討するべき時がきているのではないかと思う。